スクワットにおける足関節の可動性 その2


前回は足関節の構造と機能についてまとめました。

スクワットにおける足関節の可動性 その1

今回は足関節の機能不全がその他の関節にどのような影響を与えるのかをまとめていきたいと思います。
前回の記事でお伝えしたように足関節は距腿関節と呼ばれ背屈・底屈運動を行います。
スクワットの際に必要な運動としては足関節の適切な背屈運動で、この背屈が制限されると足関節の問題だけではなく、その他の部位へもその影響が及びます。
そのため、足関節だけの機能だけではなく、身体全体の中で足関節がどのような機能を果たすべきかを考慮する必要があり、それを理解するのに役立つ考えがThe Joint-by-Joint Concept(ジョイントバイジョイントコンセプト)です。

Joint-by-Joint Concept(ジョイントバイジョイントコンセプト)

このコンセプトは理学療法士のGray Cook氏とストレングスコーチのMike Boyle氏が、アスリートを観察してきた経験に基づいて考案されたものです。
このコンセプトによると人間の関節は

  • Stability(安定性):動作を行う際に関節を固定する能力
  • Mobility(可動性):全可動域を通して自由に動く能力

の2つの機能があり、それぞれの関節は安定性もしくは可動性どちらかの機能に特化していて、それらが交互に積み重り相互に作用することで効率的な動作を可能としているとされています。
それぞれの関節の役割は

上記で記述したように、それぞれの関節がまずは自らの機能を果たすこと(分離)が前提ですが、それらが隣接する関節と相互に作用しながら働く(協同)ことが大切で、このことを「分離と協同」といいます。

可動性の関節である肩関節が動作を行おうとしても、肩関節を動かす筋が付着する肩甲骨がぐらぐらでは筋肉が効果的に働くことはできず、本来持っている可動域をフルに使うことは難しくなることは容易に想像がつきますね。

このことはProximal Stability for Distal Mobility「近位の安定性が遠位の可動性を生み出す」と表現されています。

また、足関節内反捻挫により前距腓靭帯を損傷すると距骨の前方への制限が低下し、距骨が前方へ偏移し足部の安定性が失われます。
前方に偏移した距骨は、足関節背屈の際に前方で挟みこまれ、これにより背屈が制限され足関節の可動性が失われます。
さらには、足関節の可動性が低下することで、スクワットやアスレティックポジションで上体がより前方に倒れ、腰部の安定性が失われることで腰痛につながります。

安定性に関しての最近の捉え方としては、単に安定性の問題だけとは考えずに、姿勢制御の観点も考慮したSMCD(Stability Motor Control Dysfunction)と考えるようになってきているようです。

身体における各関節が独立して機能しているのではなく、それぞれが相互に依存し合っていることを理解するために、もう一つの考えるべきことが運動連鎖です。

運動連鎖

運動連鎖とは1つの関節が動くことでそれ以外の関節もつられて動くことです。
関節は骨と骨が連結している部分で、関節包や靭帯、軟骨などが骨同士を繋げていますので一方が動けばもう一方も動き、さらには隣接する関節も引っ張られて動きます。
運動連鎖には

  • 上行性
  • 下行性

の2つがあり、上行性とは下から上に運動連鎖が起こることで、下行性とは反対に上から下に連鎖が起こることをいいます。
下肢の運動連鎖に関して言えば、上行性の運動連鎖は距骨下関節による回転運動である回内と回外による影響を受け、下行性は骨盤の前傾、後傾の影響を受けます。

スクワットにおいて膝が内側に入るのは足関節の背屈制限の結果かもしれませんし、それを改善する為には選手に「膝をもっと外に」と伝えても根本的な改善にはつながらない場合があります。

大切なことは1つの関節の問題を見つけることだけで終わらせず、その問題が運動連鎖の中で他の部位に原因があり、その結果としてアウトプットされたものかどうかも確認する広い視野が必要だということですね。

Roundabout

理学療法士のJay Dicharry氏は「Anatomy for Runners」の中で足関節がその他に部位の動作に及ぼす影響についてヨーロッパの交差点に例えています。

ヨーロッパ式の交差点では全ての車が中央の円を一方向に通過して進路を変えています。
直進したい車も中央の円を突き抜けて進むことはできる、円の周りを進んで反対側にある直進方向の道へ進む必要があります。

スクワットの際に足関節の適切な可動域を有していれば日本式の交差点のようにそのまま膝を前に移動させて直進することができます。
しかし、適切な可動域を有していない場合はしゃがみこむ際に膝を前に出そうとしますが、足関節の背屈が制限され膝が内側に回り道をしてしまいます。
道路交通法に従って進む回り道であれば、事故の可能性は低いですが、重量を担いで行うスクワットの場合は膝が内側に入ることは事故につながる可能性が高くなりますね。

もう1つの例としては交通渋滞です。

スクワットの際に足関節を背屈させ膝を前に出そうとしますが、渋滞していて前に進むことができない場合皆さんならどうしますか?
選択肢は2つかと思います。

1つ目は諦める。
2つ目は回り道を探す。

渋滞の道路を選んだ場合、前に進むことができません。
車で言えばそれまでですが、身体はそれぞれの関節が相互に依存しお互いを補完しながら機能しているので、足関節が動かない場合はその他の部位を動かして動作を遂行します。実際、足関節背屈制限のある選手が股関節を過剰に屈曲させ、上体を前に倒している姿をよくみます。

回り道が見つかった場合は、膝が迂回路へと進みます。
一定の深さまでは膝を適切な位置に置くことができますが、足関節の背屈が限界に近づくと適切な位置からはずれ内側へと落ち込みます。

いずれにせよ腰部や膝関節へ過剰なストレスをかけることとなります。

足関節の背屈により膝関節を安定させるもう一つのメカニクスとしては

膝関節を安定させる3つの筋

上記3つの筋が関与しています。
スクワットにおける足部がどうあるべきかを以前の記事にまとめました。
その際、mid-foot(足部の中央)に荷重して踏み込むとお伝えしました。

スクワットにおける足部の安定性 その4

足部の中央に荷重することで脛骨が前方に倒れます。
そして、脛骨が前方に倒れることで腓腹筋が活性化され、膝をまたぐ

  • 大腿四頭筋
  • ハムストリングス
  • 腓腹筋

の3つ筋が同時に働き、膝関節を安定化させます。

但し、膝が前方に出過ぎる(脛骨が前方に倒れ過ぎる)と3つの筋の働きはバランスを崩し、大腿四頭筋のみがより優位に働いてしまいます。
勿論、上記以外の筋も膝関節の安定化に働いていますが、今回は足関節を背屈させることでのメリットについて記載しています。

まとめ

  • 足関節は可動性の関節であり、スクワットにおいては足関節の適切な背屈が重要である。
  • 身体にあるそれぞれの関節は相互に依存し、補完しながら運動を行っている。
  • 足関節が適切に動かない場合、股関節や膝関節その他の部位でその動作を補完する。
  • 動作を改善する為にはそのアウトプットが、何が原因で起こっていることを考える必要がある。
  • 適切な足関節背屈を行うことで、膝をまたぐ大腿四頭筋、ハムストリングス、腓腹筋の3つが活性化し、膝関節を安定させる。

スクワットにおける足関節の可動性 その3

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