緊急時行動計画書はありますか? その2


前回は東京マラソンを例に緊急時行動計画の実情などに触れました。

緊急時行動計画 その1

今回はNATAのポジションステートメントを参考に緊急時行動計画がなぜ必要なのかについてまとめていきたいと思います。

緊急時行動計画(EAP)とは?

そもそも緊急時行動計画書とは何なのでしょうか?
スポーツ活動において、私たちの生命を脅かす怪我は予測不能で、ある日突然警告なしに襲ってきます。
私たちトレーナー、もしくは運営組織は選手の安全を確保する為、常に最悪の状況を想定してネガティブな準備を心がける必要があります。
緊急時行動計画書とは、これらの準備(対応にあたっての訓練も含む)を青写真にしたものと考えられます。
NATAのポジションステートメントでは、その内容について

  • 教育と訓練
  • 機器、装備品のメンテナンスと補給
  • 装備品の適切な使用方法
  • 緊急時行動計画の作成と実施

などを含むとしています。

では、なぜ緊急時行動計画書が必要なのでしょうか?

答えは

選手の命と生活の質を守るため!

です。

ここで2つの事例に触れていきたいと思います。

ハンク・ギャザーズ

皆さんはハンク・ギャザーズという名前を聞いたことがありますか?

彼は当時Loyola Marymount University (LMU)の4年生で、NBAドラフトにおいて一巡目指名が確実視されていたバスケットボール選手でした。
フィラデルフィアの貧しい家庭で育った彼は、NBA選手になって家族を幸せにすることを目標としていたそうです。
そして、アメリカンドリームに手が届くところまできた1990年3月4日、彼は力強いアリウープを決めた後、突然試合中のコートに倒れ、そのまま命を失いました。

遡ること1年の1989年にも彼は試合中のコートに倒れ、その際に「運動誘発性心室頻拍」と診断され、薬を処方されていました。
しかし、NBA入りに支障がでることを恐れ、心臓に異常があることを隠してプレーし、薬の量もプレーに悪影響がでるとの考えから減らしていたそうです。

競技スポーツは人々に勇気や感動を与える素晴らしいものですが、その影響力が大きいが故

  • 指導者とプレーヤー間の権力関係
  • 誤った勝利至上主義
  • 競技成績が進学や就職に役立つ
  • ドーピング及び禁止薬物等の使用

などの問題についても改めて考える必要があるのかもしれませんね。

その後、家族は適切な救急対応を提供しなかったことに対して学校側に過失、不注意な行動があったと申し立てました。

ドリュー・クラインクネヒト

1988年9月、Gettysburg College2年生のラクロス選手だったドリュー・クラインクネヒトがシーズンオフの練習中に心臓発作を起こし命を失いました。
クラインクネヒトの両親は大学側に過失があるとし、不当な死に対する訴訟を起こしました。
1992年、裁判所は

  • 心臓病などの既往歴がなかったこと
  • 心臓発作を完全に予期するのは不可能なこと

を理由として、大学側を支持する判決を下しました。

しかし、1993年、控訴裁判において裁判所はその決定を覆しました。
その理由として、クラインクネヒトはラクロスをプレーする目的でGettysburg Collegeにリクルートされ、大学はその選手に対して義務を負うとした。
さらに、運動選手が運動中に心停止を起こす可能性について予測できる出来事であるとし、大学はその任務の一環として、緊急事態の迅速な取扱いを提供するために合理的な措置を講じ、適切に実施しなければならないとしました。

職務上・法律上の責任

さて、ここで再度

なぜ緊急時行動計画書が必要なのでしょうか?

の質問に対しての答えを考えたいと思います。
前述の通り、何よりも大切なことは

選手の命と生活の質を守るため!

です。

しかし、これまでに起こった悲しい出来事は命を失った本人ばかりか、周囲の方々の人生にも大きな影響を与えています。
上記の件でも言えますが、学校側、チーム側は誰一人として選手が命を失うことを望んでませんでした。
それでも、緊急時に適切な対応を提供、実施できなかったことで法的な責任を負わされました。

私たちスポーツに関わる仕事に従事する際のには

  • 職務上
  • 法律上

の2つの責任を負っています。

職務上の責任とは、「組織」と「個人」を分けて考える必要があります。
まず組織としては、競技大会の運営または学校でのシーズン中、シーズン外の活動を含むあらゆる活動において緊急事態が発生した場合、適切な措置を講じる責任を負っています。
また、トレーナー個人においても緊急時行動計画書の策定、訓練、実施などが必須のタスクとされていてそれに対して責任を負っています。
例えば、競技大会を運営する組織や学校が緊急時行動計画書を策定していなかったり、AEDを設置していなかった場合は適切な措置を講じる責任を果たしていなかったことになります。
反対に、組織として適切な人員を配置し、緊急時行動計画書を策定していても肝心のトレーナーが現場で適切な措置を講じなかった場合、トレーナー個人として職務上の責任を果たしていなかったことになります。その場合でも、個人を訓練していなかった場合、組織としても責任が問われることとなるかと思います。

そして、それらの責任を果たさずに選手が命を失ったり後遺症が残った場合、請求、訴訟の根拠となり、法的に裁かれるということです。

結果的に、緊急時行動計画書は

  • 選手の命と生活の質を守る
  • 競技を運営する組織を守る
  • 指導者やトレーナーなどの個人を守る

ことにつながります。

まとめ

  • 緊急時行動計画書とは、緊急時対応の青写真と考えられる。
  • 緊急時行動計画書には教育と訓練、機器・装備品のメンテナンスと補給、装備品の適切な使用方法、緊急時行動計画の作成と実施などが含まれる。
  • 緊急時行動計画書を策定・掲示することは選手・組織・関係者の人生を守ることにつながる。

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