スクワットにおける膝関節の安定性 その5


これまでの記事で膝関節の構造とその機能について触れてきました。
今回はスクワット動作において膝関節はどうあるべきなのかについてまとめていきたいと思います。

前回までの記事は

スクワットにおける膝関節の安定性 その1
スクワットにおける膝関節の安定性 その2
スクワットにおける膝関節の安定性 その3
スクワットにおける膝関節の安定性 その4

をご覧ください。

これまでの記事でも述べたように、膝関節は可動性関節である足関節と股関節の間にあり安定性が求められています。
どのような安定性が求められているかを考える前に、私たち人間の身体が

  • 前額面
  • 矢状面
  • 水平面

の3つの面の複合で関節運動が行われていることを再度認識する必要があります。
膝関節が求められている安定性は、上記3つの面の内、矢状面・水平面での動作であり、スクワットにおいては正面からみた際に膝が内側や外側にブレたり、上方からみた際に内側や外側に回旋せずに動作ができているかということになります。
矢状面においてはむしろ、広い屈曲と伸展の可動域を求められ、これは膝関節のみではなく足関節や股関節の可動性も影響してきます。
また、膝が前に出過ぎたり、早い段階で前に移動することは矢状面での安定性が低いとも考えることができるかと思います。
この前額面・水平面での安定性、矢状面での可動性と安定性を改善することで、力の伝達効率が高まりパフォーマンスが向上したり、過度のストレスから膝関節を守り傷害予防につながります。

スクワットにおいて膝はどうあるべきなのでしょうか?

まずはスクワットにける膝関節動作の起こり得る間違いについて記載します。

膝が内側に入る

ここでは膝が内側に入ると記載していますが、正確には内外にブレないということです。
一般的には内側に入ることが多いため、ここでは内側に入ることを中心にまとめます。
まずは何を基準として内側に入っていると判断するのかを確認してみます。

  • バイラテラル(両側性)の場合:正面からみてつま先の真上にある
  • ユニラテラル(片側性)の場合:第2趾と股関節を結んだ線上にある

バイラテラルに関してですが、膝が正面を向くとは記載しませんでした。
理由としては、目的によって異なる可能性があるためです。
以前の記事でも記載しましたが、単純にスクワットと言っても、フィールドやコート上で行うものと、ウエイトルームで行うものではつま先の向きが異なります。

詳しくはこちらをご覧ください。

フィールドやコート上で行うスクワットでは一般的につま先を正面に向けるので膝も正面に向ける必要がありますが、ウエイトルームで行うスクワットではつま先を30度外側に向けるので膝に関してもやや外側を向くことになります。
つまり、目的によってつま先の向きは変わるが、膝は常につま先と同じ方向を向ける、解剖学的に言えば、上方からみた際に足部と大腿骨は常に平行にあるということです。

ユニラテラルに関しては、つま先と同じ向きだけでは正しいとは言い切れません。
勿論、つま先が正面を向いているのに対して、膝が内側を向いているニーインは適切な位置ではありません。
では、つま先が正面を向いていて、膝も正面を向いていたら適切でしょうか?
ここで考えなくてはいけないのは、相対的なニーインです。
上述したように、片脚でのスクワット動作では第二趾と膝と股関節が一直線上にあるべきです。(勿論片脚なので、斜めにはなります)
仮に、第二趾と膝が直線状に並んでいたとしても、股関節が外側に逸れている場合、膝は相対的に内側に入っていることになります。
これをヒップアウトといい、結果膝関節に外反ストレスが加わることになります。

大切なことは、膝がつま先の上にあることだけではなく、その延長線上に股関節が位置しているということです。
特にスポーツでは走ったり、切り返したりなど片脚になる局面が多くあります。
両脚での動作だけではなく、片脚での動作も評価しておきたいですね。
私の経験上ですが、両脚でのバックスクワットで体重比で2倍以上挙げられる選手でも、片脚になるとピストルスクワットで深くしゃがめなかったり、膝が内側に入ってしまう選手を数多くみてきたので片脚スクワットは大切な評価項目の1つです。

上記の基準から逸脱した場合、膝関節には外反ストレスがかかってしまい、内側には牽引ストレス、外側には圧縮ストレスが加わります。
また、内側に入ると股関節伸展筋の1つである大内転筋の活性が低下してしまい、効果的なヒップドライブができなくなります。

詳しくはこちらをご覧ください。

膝が前に出過ぎる

よく「つま先よりも膝が前に出さない」といった指導を聞くことが多いですが、ここでは膝が前に出過ぎないと記載しました。
その理由は2つあります。

  • スクワットの種類によって異なる
  • 構造によって異なる

スクワットと一概にいっても

  • ハイバーバックスクワット(HBBS)
  • ローバーバックスクワット(LBBS)
  • フロントスクワット
  • オーバーヘッドスクワット

などバーを担ぐ位置の違いだけでも様々存在します。
そして、スクワットという共通の言葉はつきますが、その動作は異なります。

【図1】


出典:Starting Strength

図1はローバーバックスクワットとフロントスクワットを比べたものですが足関節、膝関節、股関節などの関節角度は異なり、つま先に対する膝の位置も変わります。
フロントスクワットやオーバーヘッドスクワットでは上体が垂直に近くなるため膝は前に出やすくなります。
それに対して、バックスクワット、特にローバーポジションでは上体が前傾し、フロントスクワットやオーバーヘッドスクワットよりも膝は前に出にくくなります。
今回はスポーツクラブで一般的に行われているバックスクワットを中心に記事を投稿しているので膝は前に出過ぎないとしています。
ちなみに、図1では膝がつま先よりも前に出ていますが、一般的にはローバーバックスクワットの場合、膝はつま先のやや後方に位置します。

【図2】


出典:Starting Strength

上記でバックスクワットの場合は膝がつま先のやや後方に位置すると記載しましたが、これもクライアントによって微調整が必要です。
身長が高い選手は必然的に脛骨が長い傾向にあるため、どうしても膝がつま先よりも前に出ることが多くなります。
それを前述の基準に合わせて膝をつま先のやや後方にするように指示した場合、上体の前傾が強くなり腰部に対して過剰に負担をかけてしまうことになりかねません。
同じ身長の選手でも大腿骨や脛骨の長さの比率によって膝の位置は異なります。
ここでも大切なことは基準とそれに対する許容範囲をもちながら、いかに個々の身体特性に微調整するかだと思います。

膝が前に出過ぎている場合、膝がより屈曲し、ハムストリングスの遠位が近づき距離が短くなります。
そのため、ハムストリングスが効果的に力を発揮することができなくなり、ヒップドライブを適切に引き出せなくなります。
また、膝が前に出過ぎることは脛骨大腿関節への剪断力や膝蓋大腿関節に対する圧縮ストレスが増大し障害のリスクを高めます。

膝が前にでるタイミングが早すぎる

上記で記載しましたが、スクワットのボトムポジションでは膝がつま先よりも前に出過ぎないことが大切です。
スクワットの種類によっては上体をより垂直にするため膝を前に出さざるをえなかったり、選手の身体的特性によっては前に出ることもあります。

ローバーバックスクワットの場合、一般的にはボトムポジションで膝はつま先よりもやや後方に位置します。
フロントスクワットやオーバーヘッドスクワットではボトムポジションで膝はつま先よりも前に出てきます。

私は選手にエクササイズを指導する際に、まず開始姿勢を徹底して教えます。
理由としては、開始姿勢が適切でないとその後のフォームすべてに影響を与えてしまうからです。
例えば、スクワットにおいてスタンスが狭かったり、つま先が正面に向いていると膝は前に出やすくなります。
スタンスに問題がある場合、そのスタンスを変えずに膝を出さないように指導してもおそらく問題は解決しないことが多いです。

そして、次に指導するのが、終了の姿勢(ボトムポジション)です。
ハングパワークリーンを指導する際も、開始姿勢であるハングポジションを指導し、その次に終了姿勢であるラックポジションを指導します。
ラックポジションをしっかり身に着けておかないことは、車でいうとブレーキの踏み方を知らないのと一緒で大怪我をしてしまう可能性があります。

最後に開始姿勢と終了姿勢の間である動作をみるようにしています。
動作に関しても優先順位としては

  1. 脊柱

の順にみるようにしています。
これはスクワットに限ったことではなく、アクセレレーション、プライオメトリックなど全てのエクササイズに共通しています。
そして、脚に関しては床か力が伝わってくるので基本的には足部から上にみていくことが多いです。

スクワットの動作過程で起こりやすいエラーは膝から動き始めることです。
これは特に女性にみられることが多いようですね。

膝へのストレスや効果的なヒップドライブを引き出すためには、股関節から動き始めるべきです。

まず、股関節を屈曲させ臀部を後方に突き出し、バランスをとるために上体を前に倒します。
そうすることで股関節とバーの距離が離れモーメントアームが増加し、股関節と脊柱が屈曲する回転力が生まれます。

【図3】


出典:Starting Strength

上の図は、臀部を後方に突き出し上体を前に傾けることで増加するモーメントアームを示しています。
上体を前に倒せば倒すほどモーメントアームは増加し、それに伴い大きくなる回転力に抵抗するためにハムストリングス、臀筋群、脊柱起立筋などのPKC(postiror kinetic chain)が活性化されます。

では動き初めにどこまで臀部を後方に突き出し、上体を前に倒すべきなのでしょうか?

答えは、「バーの位置が足部中央の真上を保持できる範囲で突き出す」です。

以前の記事でも記載しましたが、多数のスクワットで動作がやや異なりますが、共通して言えることはバーが常に足部中央の真上にあることです。
逆に言えば、バーを足部中央の真上に位置させるために、スクワットの種類によって上体の角度や膝股関節や膝関節の屈曲角が異なるとも言えます。

臀部を後方に突き出し過ぎてしまえば、バーが足部中央よりも前に移動しバランスを崩してしまったり、股関節や脊柱とバーのモーメントアームが増大し、過剰な負荷がかかってしまいます。
特に、フロントスクワットの場合はバーを身体の前で保持する分、バックスクワットよりもさらにモーメントアームが増大するため臀部の突き出しは少なくする必要があります。

ここまでスクワットの際に膝関節はどうあるべきなのか。
そして、その際に起こりやすい3つのエラーについて触れてきました。

  • 膝が内側に入る
  • 膝が前に出過ぎる
  • 膝が前に出るタイミングが早すぎる

これらのエラーは

  • 構造の問題
  • 機能の問題
  • 姿勢制御の問題
  • スタンスやフォームに対する認識不足

などで起こります。
次回はスクワットにおける膝関節の安定性をどう評価するのかについて触れていきたいと思います。

まとめ

  • 膝関節は可動性関節である足関節と股関節の間にあり安定性が求められている。
  • スクワットにおいて膝関節は前額面、矢状面、水平面3つ面での安定性が求められる。
  • スクワットにおいて起こりやすり膝関節のエラーは膝が内側に入る、前に出過ぎる、前に出るタイミングが早すぎるの3つある。
  • スクワットにおける膝関節のエラーは様々な要因で起こり、それによりエクササイズの効果や関節などに対して負の影響を与えることがある。

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