スクワットにおける膝関節の安定性 その2


前回の記事では膝関節に関わる骨についてまとめてみました。

スクワットにおける膝関節の安定性 その1

今回はその骨がどのように関節を構成しているのかと脛骨大腿関節を安定させている受動システムについてまとめていきたいと思います。

関節の構造

膝関節は

  • 脛骨大腿関節
  • 膝蓋大腿関節

の2つからなります。

【画像1】

脛骨大腿関節(Tibiofemoral Joint)

外側と内側の脛骨大腿関節は、大きな凸面の大腿骨顆とほぼ平坦で小さめの脛骨顆で構成されています。
脛骨大腿関節の安定性は、しっかりした骨性適合ではなく、筋や靭帯、関節包、半月、体重による外力や物理的な閉じ込めによって得られています。
今回のアイキャッチはタイ国カムペーンペット県にある奇岩トゥンヒントゥーンの画像ですが、骨性適合の少ない大腿骨と脛骨の関係性をよく表現しています。

関節の安定性に寄与するシステムとしては

  • 受動システム:関節包、半月、靭帯などによる関節可動域の最終域での安定性
  • 能動システム:筋による関節可動域の中間域での安定性
  • 神経コントロール:神経系による筋活動パターンの制御による安定性

受動システム

骨性適合の少ない膝関節における受動システムの主なものとしては

  • 関節包
  • 半月
  • 靭帯

があげられます。

関節包

膝関節の線維性関節包は、内・外側の脛骨大腿関節と膝蓋大腿関節を包み骨と骨を繋いでいます。

【画像2】

関節包は

  • 線維膜
  • 滑膜

からなります。
線維膜は密で不規則な結合組織からなり、主に骨と骨との支持を担います。
この線維膜は筋や靭帯、筋膜によって強く補強されている5つの部分があります。

  1. 前関節包:大腿四頭筋や膝蓋支帯によって補強
  2. 外側関節包:外側側副靭帯、外側膝蓋支帯、腸脛靭帯、大腿二頭筋、膝窩筋、腓腹筋によって補強
  3. 後関節包:斜膝窩靭帯と弓状膝窩靭帯、膝窩筋、腓腹筋、ハムストリングスによって補強
  4. 後外側関節包:弓状膝窩靭帯、外側側副靭帯、膝窩筋によって補強
  5. 内側関節包:内側側副靭帯、内側膝蓋支帯、鵞足によって補強

それに対して、関節包内層の薄い滑膜は、関節内の内容物の閉じ込めを行っていています。
また、ヒアルロン酸や潤滑に役目を果たす糖タンパクを産生し、関節腔を満たしている滑液へ供給しています。
滑液の働きとしては

  • 関節軟骨に栄養与える
  • 関節軟骨に潤滑を与える

ことです。
この滑膜には組織の不完全な吸収によって組織が緩み、重なったヒダが形成される場合があります。
一般的には大きな関節包の内面積をもつ膝と肘でみられます。
膝関節には

  • 膝蓋上滑膜ヒダ
  • 膝蓋下滑膜ヒダ
  • 内側滑膜ヒダ

の3つの滑膜ヒダがあり、約25-50%、2-4人に1人の割合で認められるようです。
特に、内側滑膜ヒダは反復性の刺激や外傷により肥厚、炎症による癒着を起こすと膝関節痛を生じる場合がり、通称「タナ障害」と呼ばれています。

半月

【画像3】

半月は膝関節内に位置する三日月状の線維性軟骨の円板で

  • 内側半月:C字状
  • 外側半月:O字状

の2つあります。

内・外半月の外縁は、脛骨と隣接する関節包に冠状靭帯を介して付着しますが、冠状靭帯は比較的緩いため、運動中自由に回旋することが可能です。
細い膝横靭帯は前方で内・外半月を連結しています。

半月の主な機能は、

  • 関節の適合性を高める
  • 脛骨大腿関節での圧迫応力の減少

です。

それ以外にも

  • 運動中の関節の安定化
  • 関節軟骨の潤滑
  • 摩擦の減少
  • 膝の関節包内運動の誘導

などがあげられます。

脛骨近位端の内側顆と外側顆はほぼ平坦になっているため、半月によって大腿骨に合う浅い座部を形成することで関節の安定性を高めています。
また、関節面での接触面積を約3倍にすることによって、関節軟骨にかかる圧力を減少させる働きがあります。
我々が歩行をする際、膝関節にかかる圧迫力は通常、体重の2-3倍に達しますますが、半月はその負荷を約1/3吸収しています。
さらに、荷重をした際に半月が圧縮され、末梢方向へ変形することも圧縮力の減少に貢献しています。
外側半月を完全切除すると、最大接触圧は230%にまで増大し、負荷増大に伴う関節炎発症のリスク、将来的な変形性膝関節症の発症リスクが増加します。
その為、近年は摘出に代わって修復術が選択されるようになってきているようです。

私が小学生の時、同じチームの選手が半月を損傷してすぐに摘出したのを記憶していますが、今なら違う選択肢もあるかもしれませんね。
とは言え、半月の外周側は隣接の滑膜や関節包内の毛細血管から血液の供給はありますが、内側縁は実質的には無血管(画像3)なので摘出を選択せざるを得ない場合もあります。
下の画像は半月損傷の種類と膝関節の肢位の変化による半月の動きを記したものです。

【画像4】

大腿四頭筋と半膜様筋は両側の半月、膝窩筋は外側半月に付着し、膝関節の運動の際に半月が挟み込まれないように能動的に位置を調整しています。
画像3を見て頂ければわかる通り、内側半月はアルファベットのC字状をしている形状と内側側副靭帯や隣接する関節包の深部表面に付着することでしっかりと固定されているため、膝関節の肢位に対する変位が少ないです。
これが内側半月が外側半月よりも頻繁に損傷する理由の1つです。

半月の損傷は、膝関節軽度屈曲位で荷重している際に、大腿骨顆部が水平面上を強制的に回旋されて生じることが多いです。
内側半月は屈曲と荷重による圧迫と過度の膝外反により内側側副靭帯の緊張の結果、その付着部が引き伸ばされ受傷します。
スクワット動作により損傷とまではいきませんが、膝が内側に入ることでこれらの負荷が半月にかかってることを考えると注意が必要ですね。

靭帯

脛骨大腿関節の主な靭帯としては

  • 前十字靭帯
  • 後十字靭帯
  • 内側側副靭帯
  • 外側側副靭帯

前・後十字靭帯は大腿骨顆間窩内で十字型に交差している靭帯で、脛骨への付着の仕方によって名前が異なりますが、どちらの靭帯も厚く強靭で、膝関節を安定化させる重要な役割を果たしています。

  • 膝関節の前後剪断力に抵抗
  • 膝関節の関節包内運動の誘導

特に大腿骨と脛骨間の前後剪断力に抵抗し、歩行、走行、ジャンプ動作など矢状面の運動で生じる力に対して膝関節を安定させる働きがあります。
スクワットは矢状面での運動が中心ですので、動作を通して十字靭帯が前後の剪断力に抵抗して膝関節を安定させたり、関節包内運動の誘導を補助しています。

十字靭帯は滑膜や近くの軟部組織にある小血管から血液の供給を受けてはいますが、関節内になるためその供給量は十分ではなく、断裂をした際に自然治癒するまでは至りません。
そのため、特に前十字靭帯を断裂した場合、競技レベルでスポーツを希望するのであれば自家移植腱を用いた外科的再建術が必要となることがほとんどです。

前十字靭帯損傷の現状としは

  • アメリカでは年間100,000件以上
  • 日本では年間20,000-30,000件
  • 前十字靭帯損傷の70%はスポーツによる損傷である
  • スポーツ選手における前十字靭帯損傷発生率は、一般集団より10-100倍高い
  • 前十字靭帯損傷が最も多い年齢は16-18歳である

となっているようです。
日本国内でも単純計算で1日あたり54-82件も前十字靭帯損傷が発生していることになります。
そして、その内37-57件はスポーツ中に発生していることになります。

側副靭帯は脛骨大腿関節の前額面での過度の動きを制限するのが主な機能です。
内側側副靭帯は膝関節伸展時に前方線維が外反、外転方向へのストレスに効力を発揮します。
それに対して外側側副靭帯は内反、内転方向へのストレスに効力を発揮しています。特に内側側副靭帯は内側膝蓋支帯や後内側関節包、内側半月、半膜様筋腱などにも付着する為、膝関節の安定性や機能により重要な役割を果たしています。
側副靭帯は完全屈曲位よりも完全伸展位で約20%伸張するため、膝関節軽度屈曲位での外反ストレスによる内側側副靭帯損傷がよくみられます。

膝関節は骨性適合が少ないため脛骨大腿関節における受動システムについての話だけで大分長文になってしまいました・・・。
もっと単的にまとめる努力をしないとですね。
次回は膝蓋大腿関節における受動システムについてまとめます。

まとめ

  • 膝関節は脛骨大腿関節と膝蓋大腿関節の2つからなる。
  • 脛骨大腿関節の安定性は、しっかりした骨性適合ではなく、筋や靭帯、関節包、半月、体重による外力や物理的な閉じ込めによって得られている。
  • 脛骨大腿関節の安定性は、受動、能動、神経コントロールの3つのシステムが寄与している。
  • 受動システムは関節包、半月、靭帯などによる関節可動域の最終域での安定性に貢献している。

スクワットにおける膝関節の安定性 その3

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