スナッチの適切なグリップ幅は?


下の動画は、私がクリーンやスナッチなどのオリンピックリフティングを学ぶ際に参考にさせていただいている「California Strength」の動画です。

これまではウェイトリフティングを競技として行っている方、もしくは競技選手の一部がスナッチの恩恵を受けていましたが、最近では、日本でもCrossFitが知られるようになり、一般のトレーニーでもスナッチを行う機会が増えたように思います。
実際、私が昨年受講したCrossFitのインストラクター講習にも、トレーナー以外の方々が男女問わず参加されていました。

そこで、今回はスナッチを行う際の適切なグリップ幅についてまとめてみたいと思います。

そもそも、スナッチを行うにあたって、万人に共通するグリップ幅は存在のでしょうか?

答えから言うと、ありません!

その理由としては

  • 骨格
  • 柔軟性
  • 筋力
  • 既往歴

などがあげられます。

まず骨格に関してですが、

【図1】

人間の身体には206個の骨が存在すると言われています。
長いものから短いもの、複雑な形をしたものなど大小様々です。
身長が違えば、骨の長さも異なるのですが、同じ身長の選手でも上体や腕、脚の長さは異なります。

スナッチに限らずトレーニングの際には、上記の構造上の特性を考慮しながらスタンスやグリップ幅を選択する必要があります。
特に、腕が長い選手はより広いグリップが必要になります。

続いて、関節の機能です。

【図2】

各関節は

  • 安定性
  • 可動性

のどちらかの機能を担っています。
詳しくはこちらをご覧ください。
スナッチでは、特に肩関節と胸椎の可動性が重要に必要になります。
胸椎や肩関節の柔軟性が低い選手は、通常のグリップ幅だとバーを肩関節の真上に保持することが難しいため広めのグリップ幅になります。
また、柔軟性以外にもグリップ力などの筋力も関係します。
広いグリップ幅では指の接触面積が減少するためより強いグリップ力が必要になるため、手が小さい選手やグリップ力があまり強くない選手は狭めに握ると良いかもしれません。

そして、最後に既往歴なども確認しておきます。
例えば、手関節を痛めた経験のある選手にはグリップを狭めにして手関節への負担を減らすなどの工夫が必要です。

このように万人に共通するグリップ幅は存在しません。
There is no one-size-fits-all」ですね。

次にグリップ幅の違いによって何が変わるのかを考えていきましょう。

グリップ幅の違いによるメリット・デメリット

広いグリップ幅のメリット
  • バーの移動距離が少ない
  • 肩の柔軟性が少なくて済む
  • バーと身体の距離が近くなる
広いグリップ幅のデメリット
  • 床からの開始姿勢が難しくなる
  • 手首に負担がかかる
  • バーと手の接触面積が減少し、グリップ力弱くなる
  • 肘を伸展位でロックしづらくなる
  • バーを頭上にあげた際の肩の安定性が低くなる
狭いグリップ幅のメリット
  • 床からの開始姿勢がより快適に力強くなる
  • 手首の負担が改善される
  • バーを頭上にあげた際の肩の安定性が高まる
  • 頭上で肘を伸展位でロックしやすくなる
狭いグリップ幅のデメリット
  • バーの移動距離が長くなり、挙上するのにより時間がかかる
  • より肩の柔軟性が必要になる
  • 挙上する際に肘を外側にあげづらい
  • 重心が高くなることでバーと身体の動揺する機会が増える

など、それぞれのグリップ幅でのメリット、デメリットがあります。
上記を理解した上で、クライアントの腕や足の長さ、上体の長さなどの「構造」と、グリップの強さなどの筋力、胸椎や肩甲上腕関節の柔軟性などの「機能」を考慮してグリップ幅を選択する必要があります。

参考までに各協会や書籍などに記載されている基準を確認してみましょう。

NSCA

NSCAのガイドラインでは2つの方法が紹介されています。

  • 腕を横に伸ばしたときの、肘と肘の距離。
  • 腕を横に伸ばしたときの、一方の腕の握りこぶしの先から反対の肩までの距離。

JATI

JATIでは

  • 手幅を水平に上げた腕の肘から肘までの距離。

としています。
これはNSCAの「腕を横に伸ばしたときの、肘と肘の距離」と同じですね。

OLYMPIC WEIGHTLIFTING : A COMPLETE GUIDE FOR ATHLETES & COACHES

OLYMPIC WEIGHTLIFTING:A COMPLETE GUIDE FOR ATHLETES & COACHESでは

  1. 立位でバーを握る(フックグリップ)
  2. 肘を完全に伸展させる
  3. バーベルが股関節のしわの辺りに位置するまで手の幅を広げる
  4. 片側の股関節を屈曲させ膝をあげる
  5. 微調整をする

バーの位置を股関節のしわを基準にすることで腕の長さや肩幅だけではなく、上体や脚の長さなどの身体特性も考慮したグリップ幅を選択することができます。
その後、適切な位置にバーがあるかを片側の股関節を屈曲させ、膝があがるかを確認します。
バーが邪魔して膝があまりあがらないようであればバーの位置が低く、あがり過ぎる場合はバーの位置が高すぎるということです。
そうすることでスナッチの最終伸展の際にバーが恥骨や上前腸骨棘に当たるのを防ぐことができます。
さらに、アスリートの筋力や柔軟性等を考慮して幅を微調整します。
例えば、脚が長く、上体が短い選手は、上記の方法ではグリップ幅が広くなる傾向があるため、やや狭くする必要があります。
その際の指標としてはバーを頭上にあげた際に、頭頂部とバーの距離が10-20cmになるように調整すると良いようです。

Starting Strength : Basic Barbell Training

私がウエイトトレーニングにおける学びのバイブルとしているStarting Strengthでは

  • バーを保持して立つ
  • バーが恥骨と上前腸骨棘の間に位置するまで握った手を広げていく

としています。
また、バーを握る際にフックグリップを用いることが重要であるとしています。
その理由としては、スナッチのような手を広げたグリップでは、親指、人差し指、中指の3本が主要なグリップになり、残りの薬指、小指はほとんど貢献しません。
その為、少ない指でバーを保持するためにはフックグリップが必要になるとしています。
さらに、日本のスポーツクラブではみたことはありませんが、チョークの活用に関しても重要であるとしています。

私は上記のことなどを参考にしながら下記の流れで行います。

適切なスナッチグリップの3ステップ

  1. 足を腰幅、つま先をやや外側に向けて立ち、バーが恥骨結合と上前腸骨棘の間に位置するまで手の幅を広げる。
  2. 片側の股関節を90度屈曲させ微調整する。
  3. Shoulder Dislocates(Pass Through)を行い微調整する。

ステップ1:バーを恥骨結合と上前腸骨棘の間に位置させる

まずはパワースタンスやプリングスタンスと呼ばれる姿勢をとります。

【画像3】

これは、垂直跳びやコンベンショナルデッドリフトの開始姿勢と同じで、両足を腰幅(20-30cm)に開き、つま先をやや外側に向け、重心を足の中央部分に置く。
選手に「縄跳びのように、その場で何回かジャンプを繰り返して」と言うと、自然とこのスタンスを取ります。
脚を腰幅にすることで真下に力を伝えることができ、その反作用で効率よく真上に跳びあがることができるのを理屈抜きで分かっているのですね。

クリーンやスナッチなど行う際は、つま先はやや外側を向けますが、画像1では上のスタンスになります。
特に床からのスナッチでは手の幅が広くなるため開始姿勢がクリーンに比べて、より上体が水平方向に傾きます。
それに伴い、股関節の屈曲角が増えるのでつま先をより外側に向けた姿勢をとる必要があります。

上記のスタンスをとったら、肘関節を完全伸展位のまま、バーが恥骨結合と上前腸骨棘の間に位置するまで手の幅を広げていきます。

【画像4】

画像4の上の点線が上前腸骨棘、下の点線が恥骨結合です。
勿論バーはフックグリップで保持します。

ステップ2:片側の股関節を90度屈曲させ微調整する。

バーの位置が定まったら、片側の股関節を屈曲させ膝があがるかを確認します。
膝が股関節よりも上にあがるようであれば、バーの位置が高すぎるので手の幅を少し狭めます。
反対に、膝が股関節の位置まであがってこない場合はバーの位置が低すぎますので、手の幅を広げます。

ステップ3:Shoulder Dislocates(Pass Through)を行い微調整する。

ここまでの流れで上肢や肩幅の長さだけではなく、上体や脚の長さなど、全身のプロポーションを考慮したグリップ幅が設定できます。
そして、全身の骨格といった構造上の問題考慮した後に、筋力や柔軟性などの機能を考慮してさらに微調整を行います。

上の動画はShoulder DislocatesやPass Throughなどと呼ばれるエクササイズで、肩周りの柔軟性を改善するために行われます。
ステップ1とステップ2で設定したグリップ幅でShoulder Dislocatesを行います。
肘関節を完全伸展させたままでバーを後方に回すことができない場合はグリップ幅を少し広めにします。
但し、広げた際にバーが上前腸骨棘に触れたり、それよりも上にいったりすると、スナッチの最終伸展の際に股関節の力が効果的に発揮できなかったり、バーが上前腸骨棘にぶつかってしまいますのでしないように気を付けましょう。

また、握力の弱い選手や手の小さい選手に関してはグリップ幅を広げるとバーの保持力が弱くなるので考慮する必要があるかと思います。

まとめ

  • スナッチのグリップ幅は広さによってメリット・デメリットがあり、それぞれの特徴を理解した上で選択する必要がある。
  • スナッチのグリップ幅は各団体や指導者によって様々な基準が設けられている。
  • スナッチのグリップ幅を決める際は、肩幅や腕の長さだけではなく、上体や脚の長さなど、全身のプロポーションを考慮する。
  • スナッチのグリップ幅を決める際は、バーを恥骨結合と上前腸骨棘の間に位置させ、その間でクライアントの「構造」と「機能」を考慮して微調整する。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です