スクワットにおける足部の安定性 その2
前回はスクワットにおいて足部がどうあるべきかを検討するための構造や機能などに触れました。
今回の記事では前回お伝えした足部の構造や機能が他の関節にどう影響するかをまとめていきたいと思います。
スクワットにおける足部の安定性 その1
スクワットにおける足部の安定性 その3
スクワットにおける足部の安定性 その4
足部はその他の部位の動作を効率かつパワフルにする安定した土台となります。
その安定した土台を提供するために、足部は距骨下関節、横足根関節に置いて「固定された踵骨の上を回転しながら動く」ということを前提とする必要があります。
そしてその土台が崩れた場合、他の部位にも影響が現れます。
家でも強固な基礎がなければ、建物部分はすぐに崩れてしまいますよね。
「THE SQUAT BIBLE」(Dr.Aaron Horschig著)では、上記を三輪オートバイに例えています。
そんな訳で今回の「スクワットにおける足部の安定性」の記事ではアイキャッチを足部の安定性を表現するものとして三輪オートバイにしています。
この著書では適切なアーチの維持し、三輪オートバイのように荷重を分配することが大切だとしています。
もし、1つの車輪が地面に接していなかったら、三輪オートバイはパワーをロスし、壊れてしまうことは容易に想像がつきますね。
我々人間の身体も一緒で足部による安定した土台が提供されなければ壊れてしまいます。
人間の身体は全身の骨が関節によって連結されていて、1つの骨や関節が動くと隣接する関節も引っ張らて動き、様々な部位に連鎖します。
これを運動連鎖といいます。
運動連鎖
運動連鎖は
- 上行性
- 下行性
の2つがあり、上行性とは下から上に運動連鎖が起こることで、下行性とは反対に上から下に連鎖が起こることをいいます。
下肢の運動連鎖に関して言えば、上行性の運動連鎖は距骨下関節による回転運動である回内と回外による影響を受け、下行性は骨盤の前傾、後傾の影響を受けます。
上行性(距骨下関節回内)
- 距骨下関節:回内
- 下腿:内旋
- 膝関節:屈曲、外反、内旋
- 股関節:屈曲、内転、内旋
- 骨盤:前傾
上行性(距骨下関節回外)
- 距骨下関節:回外
- 下腿:外旋
- 膝関節:伸展、内反、外旋
- 股関節:伸展、外転、外旋
- 骨盤:後傾
下行性(骨盤前傾)
- 骨盤:前傾
- 股関節:屈曲、内転、内旋
- 膝関節:伸展、外反、外旋
- 下腿:内旋
- 距骨下関節:回内
下行性(骨盤後傾)
- 骨盤:後傾
- 股関節:伸展、外転、外旋
- 膝関節:屈曲、内反、内旋
- 下腿:外旋
- 距骨下関節:回外
上記の運動連鎖から扁平足の選手は距骨下関節の安定性が低く回内している傾向にあります。
距骨下関節の回内は下腿を内旋させ、さらには、膝関節内反、股関節屈曲・内転・内旋、骨盤前傾と近位の関節に影響を与えます。
骨盤前傾している選手に前傾予防としてペルビックティルトなどを行っても、距骨下関節の回内を改善できなければ本質的な解決にはならないかもしれませんね。
反対に、骨盤が前傾している選手に膝だけに着目をして内側に入らないように指導しても下行性の運動連鎖の影響であれば改善することは難しいですね。
このように1つの部位の機能不全はその他の部位に影響を及ぼし、動作を変化させます。
もう一つ重要な考え方にも触れていきましょう。
The Joint-by-Joint Concept(ジョイントバイジョイントコンセプト)
このコンセプトは理学療法士のGray Cook氏とストレングスコーチのMike Boyle氏が、アスリートを観察してきた経験に基づいて考案されたものです。
このコンセプトによると人間の関節は
- Stability(安定性):動作を行う際に関節を固定する能力
- Mobility(可動性):全可動域を通して自由に動く能力
の2つの機能があり、それぞれの関節は安定性もしくは可動性どちらかの機能に特化していて、それらが交互に積み重り相互に作用することで効率的な動作を可能としているとされています。
それぞれの関節の役割は
- 足部=安定性
- 足関節=可動性
- 膝関節=安定性
- 股関節=可動性
- 腰椎-骨盤=安定性
- 胸椎=可動性
- 肩甲骨=安定性
- 肩関節=可動性
とされています。
また、それぞれの関節が固有の機能を果たす(分離)だけではなく、隣接する関節と相互に作用しながら(協同)働くことが大切で、このことを「分離と協同」といいます。
可動性の関節である肩関節が動作を行おうとしても、筋肉の起始部である肩甲骨がぐらぐらでは筋肉が効果的に働くことはできず、動作を通して本来持っている可動域をフルに使うことは難しくなることは容易に想像がつきますね。
例えば、足関節内反捻挫により前距腓靭帯を損傷すると距骨の前方への制限が低下し、距骨が前方へ偏移し足部の安定性が失われます。
前方に偏移した距骨は、足関節背屈の際に前方で挟みこまれ、これにより背屈が制限され足関節の可動性が失われます。
さらには、足関節の可動性が低下することで、スクワットやアスレティックポジションで上体がより前方に倒れ、腰部の安定性が失われることで腰痛につながります。
もう一つ例を挙げれば、距骨下関節が回内することで足部の安定性が失われれば、上行性の運動連鎖により下腿が内旋、膝関節が外反し膝関節の安定性が失われ外傷や障害につながるでしょう。
また、最近は単に安定性の問題だけとは考えずに、姿勢制御の観点も考慮したSMCD(Stability Motor Control Dysfunction)と考えるようになってきているようです。
大切なことは1つの関節の問題を見つけることだけで終わらせず、その問題が運動連鎖の中で他の部位に原因があり、その結果としてアウトプットされたものかどうかも確認する広い視野が必要だということですね。
まとめ
- 足部はその他の部位の動作を効率かつパワフルにする安定して土台となる。
- 人間の身体は全身の骨が関節によって連結されていて、1つの骨や関節の働きが様々な部位に連鎖します。
- 運動連鎖は上行性と下行性があり、下肢に関して言えば骨盤と距骨下関節の運動が上位、下位に連鎖する。
- それぞれの関節は安定性もしくは可動性どちらかの機能に特化していて、それらが交互に積み重り相互に作用することで効率的な動作を可能としている。