ドローインとブレイシングどっちが大事?


体幹トレーニング・・・
みなさんも一度は聞いたことがあるのではないですか?

この体幹トレーニング、トレーニング用語的にはコアスタビリティトレーニングが相応しいかと思います。
要するに、「体幹(コア)を安定させる能力の向上を目的としたトレーニング」といったところでしょうか。

何年か前から体幹トレーニング関連の書籍などで「ドローイン」という言葉を目にする機会が増えました。
書店ではドローインが運動パフォーマンスを向上させる、ダイエットに効果的など実に多くの書籍が陳列され、
日常生活や運動を行う際にはドローインをするとよいなどと記述されています。

また、トレーナー界では「ブレイシング」という言葉まで使われ、体幹(コア)トレーニングを行う際はドローインではなく、
ブレイシングを行うべきだとも言われています。

では、「ドローイン」と「ブレイシング」どちらが日常生活や運動のパフォーマンスを向上させ、トレーニングを行う際にはどちらを行うべきなのでしょうか?

結論から言えば、現時点での私の見解としては、

どちらもやったほうがいい!

です。

上記の疑問を紐解くために、まずは体幹(コア)への理解が必要かと思います。

そもそも体幹(コア)って何?

解剖学的用語としては、体幹(コア)とは身体の中央部分である腰椎、骨盤を意味するようです。

参考までに、

  • National Academy of Sports Medicine (NASM)
    腰椎-骨盤-股関節複合体によって構成・統合された機能的なユニットであり、スポーツ活動における力の発揮や減速、固定などを生み出す。
  • Mike Boyle Strength & Conditioning (MBSC)
    身体の中央部分に含まれるすべての筋肉。
    腹直筋、腹横筋、多裂筋、内外腹斜筋、腰方形筋、脊柱起立筋、殿筋群、ハムストリングス、股関節回旋筋群。

など専門家によってその定義はやや異なり、現時点では確立した定義はないようです。
近年は、股関節、胸郭、肩甲骨、さらには頸椎までの意識、制御、筋力の面を含むように定義を拡張し、「体幹(コア)の安定性」を「姿勢制御」へとアップグレードしてきているようです。

コアのシステム

  • 受動的システム
    椎体、関節およびそれらに関係する関節包や靭帯による構成されている。固有受容器を介して中枢神経系へ情報を伝達している。
  • 能動的システム
    収縮性の筋と非収縮性の腱、筋膜結合組織からなる複数の層で構成されていて、能動的に体幹を安定させている。
  • 神経システム
    中枢神経、末梢神経、固有受容器などで構成されていて、受動的システムと能動的システムに指令を出している。

受動的システムにより脊柱の状況を神経システムに伝達され、神経システムから能動システムに指令が下され姿勢の制御がなされています。
要するに、体幹(コア)の安定性はこれら3つのシステムによりコントロールされています。

さらに、能動的システムの一つである筋肉は3つのグループに細分化されます。

  1. ローカルスタビライザー
  2. グローバルスタビライザー
  3. グローバルムーバー

下記の図のようなローカルスタビライザーは組織のサイズやモーメントアームなどから機械的制御には限定的にしか貢献しないが、機械受容器で十分に神経支配されているため、
重要な感覚情報を中枢神経系に伝達している。

グローバルスタビライザーは負荷、速度、四肢の動作による体幹の運動に抵抗するために働く。
グローバルムーバーは大きな関節運動を生成するために働く。

さて、コアとは何なのかを確認した上で、本題である「ドローイン」と「ブレイシング」にふれていきましょう。

「ドローイン」と「ブレイシング」が誕生した背景

  • ドローイン
    そもそも「ドローイン」とはオーストラリア人研究者Paul Hoodgesを代表とするグループが、腰痛患者および腰痛の既往歴のある人に腹横筋の筋収縮の遅延(フィードフォワード機能の低下)が起こることを発見し、その改善エクササイズとして提唱されました。
    痛み(過去の痛みでさえ)は、脳のコントロールセンターが受信する情報の質や、事象の解釈に影響を与え、コアの筋の動員のタイミングと感受性の変化をもたらすことが示されています。
  • ブレイシング
    しかし、その後カナダのStuartMcGillを代表とするバイオメカニクスを専門とする研究者たちのグループが非常に薄く、発揮トルクの少ない腹横筋だけでは腰椎-骨盤の安定性を得る事は出来ないとし、ローカル筋に加えもっと発揮トルクの大きいグローバル筋も共収縮しなければ腰椎-骨盤の安定性は得られないと提唱しました。

これらの相違は、医学分野では痛みや傷害リスクに対する改善、パフォーマンス分野では最大筋力と力学的観点からの向上を目的としているため、そもそもの目的の違いからきているものです。
つまり、どちらが正しい、正しくないといって問題ではないということです。
目的が違えば、解決策が異なるのは当たり前ですね。

ここで再度確認しなけらばならないのは「ドローイン」はあくまでも腹横筋の筋収縮の遅延を改善するためのエクササイズだということです。
腰痛を抱えていない(フィードフォワード機能の低下がみられない)選手の腰椎-骨盤の安定性をどんどん高め、パフォーマンスの向上を目的におこなうものではないということです。

能動的システムによるコアの安定性は舟のマストに似ている!

上記のことを仮に船のマストに例えましょう。
舟のマストは前後左右から吹き付ける風に耐えるよう、様々な方向からワイヤーで支えられています。
このマストを脊柱と考えると、ある一定の方向からの力だけで様々な外力に耐えるのが難しいのは誰でも理解できると思います。
人間の身体もマストと同様、3つの面(前額面、矢状面、水平面)から外力を受け、ワイヤーの働きとしてローカルスタビライザーやグローバルスタビライザーが様々な方向や角度から脊柱を安定させています。

  • 腹直筋が縦
  • 腹斜筋が斜め
  • 腹横筋が横

断面積を減らすのは効果的ではない

さらに言うならば、「ドローイン」によってお腹を引き込むことでお腹周りの直径が小さくなり曲がりやすくなります。
みなさんもアウトドアなどで足で薪を折る際は細い方を選ぶはずです。
コンタクトのあるスポーツでは細い薪が折りやすいように、「ドローイン」により細くなった体幹は折れやすく姿勢の制御は難しくなります。

ここまでご覧頂ければ、残念ながら、

「脊柱の安定性について鍵となる唯一の筋はない」

さらに、力学的観点から言えば、「ドローイン」よりも「ブレイシング」が優れているのはご理解いただけたかと思います。
しかし、人間の身体はもっと複雑で、車で例えるところの燃費も考えていかなければなりません。

動作の効率からみると

様々な大きさの力と速度に抵抗して、脊柱を安定させる能力をもっているだけでなく、代謝的に効率的な方法でその能力を発揮できる必要があります。
低い力発揮の活動における過剰な「ブレイシング」は身体から不必要にエネルギーを奪ってしまいます。
また、グローバル筋の過剰な活動は代償動作を引き起こし、動作の効率を低下させます。

大切なことは低負荷・高負荷いずれの状況下でも上肢、下肢によって力を効率的に伝達できるように、体幹(コア)を安定させることです。

下記の表はSFMAを受講した際に、FMSの資料「Hard Core vs. Soft Core」を引用させて頂いたものです。

コアスタビリティのGOAL

上記で述べてきたことからコアの安定性に対するトレーニングプログラムのGOALは

適切なレベルの努力によって、3つの面(前額面、矢状面、水平面)の安定性に対する、低負荷と高負荷の課題の両方に対応できる。

と定義づけることができます。

まとめ

  • 脊柱の安定性について鍵となる唯一の筋はない。
  • 腰痛によるフィードバック機能の遅延や固有受容器による姿勢制御にはローカルスタビライザーの活性が効果的。
  • 力学的観点だけから言えば、「ドローイン」よりも「ブレイシング」が優れている。
  • 自体重や四肢重量を利用した低負荷でのエクササイズでは代謝的観点から過剰な「ブレイシング」をしない。

現時点で私がトレーニング指導をする際は、低負荷、高負荷などの負荷設定や、四肢を動かす速度、3つの運動面を用いたコアスタビリティトレーニングをバランスよくプログラムするようにし、条件に合わせて軽くお腹を引き込んだり、いつお腹にパンチされてもいいように固めたりを選択しています。

ご参考までに普段行っているエクササイズの参考例を掲載します。
これは昨年伺わせて頂いたMBSCのプログラムを参考に作成したものです。

エクササイズ例

【ドローインエクササイズ】

ドローインエクササイズを行う際は、圧バイオフィードバック装置(PBU)による視覚的なフィードバックを行います。

【抗伸展エクササイズ】
【抗回旋エクササイズ】
【抗回旋エクササイズ】
【抗側屈エクササイズ】
【抗屈曲エクササイズ】

スクワットやデッドリフトは素晴らしい抗屈曲エクササイズですが、ここでは割愛します。

【ゲットアップエクササイズ】

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