足部の構造と機能を確認した上で、それらがどのように身体の他の部位に影響をもたらすか、さらには、外力に抵抗するための足部を位置をどうすべきかについて触れてきました。
そして、今回はいよいよ「スクワットにおける足部の安定性を高める5つのこと」について記事にしたいと思います。
これまでの記事は
スクワットにおける足部の安定性 その1
スクワットにおける足部の安定性 その2
スクワットにおける足部の安定性 その3
1.踵が肩幅のスタンス
基本的には「踵が肩幅」のスタンスが基準となります。
過度に広いスタンスは内転筋群が早い段階で伸張の最終域になり、過度に狭いスタンスは膝がより前に出やすくなったり、腹部に大腿骨が押し込まれることで適切な深さまでしゃがむことが困難になります。
適切な深さに関しての詳細は別の機会に記事にしようと考えていますが、基本的には「股関節が膝関節上端よりも下にくる位置」まで降ろすようにしています。
上の画像は膝の屈曲角度による靭帯にかかる負担と筋活動の変化を示しています。
90度以下のパーシャルスクワットでは大殿筋などの股関節伸展筋群の活性が低く、大腿四頭筋が優位に働くことや力学的観点などから前十字靭帯や後十字靭帯への剪断力が大きくなります。
適切なフォームで「股関節が膝蓋骨上端よりも下になる位置」までしゃがむことで障害を予防しながらPKC(ポステリアキネティックチェーン)の強化を行えます。
誤解のないようにお伝えするとPF関節(膝蓋大腿関節)への圧縮力は増加しますので選手の既往歴によっては考慮する必要がある場合があります。
まれに股関節の柔軟性が高い選手は狭いスタンスでもbutt wink(バットウィンク)が入らずに適切な深さまでしゃがむことができますが、一般的な柔軟性の選手はまず難しいので基準はあくまでも踵が肩幅でいいかと思います。
※butt wink(バットウィンク):スクワットで深くしゃがんでいった際に、股関節の屈曲可動域が限界になり、腰椎屈曲、骨盤後傾が起こる現象。
また、狭いスタンスでは内転筋群への刺激が低くなるため、グローインペインや内転筋損傷などのリハビリ段階では選択肢の1つとしてありかと思いますが、継続的に行うとそれらの筋の筋力不足を助長するため、あくまでリハビリの期間に限定するべきです。
少し長くなってしまいましたが、上記のことから一般的なストレングストレーニングでは、より安全で効果的に力を発揮できるように踵が肩幅のスタンス(ストレングススタンス)をとります。
2.つま先を30度外側に向ける
理由としては2つ挙げられます。
- 脛骨の外捻
- 適切なヒップドライブ
脛骨の遠位端は長軸の周りで、近位端に対して外旋方向に約20-30度捻じれています。
足部が外旋することで支持基底面を増やし、重心線が基底面の中央に位置させているので立位での安定性が増します。
膝を軽く曲げ椅子に座った際、つま先は正面ではなく自然と外側を向きます。
これが解剖学的に捻じれが生じない自然な位置です。
正面に向けると少し窮屈な感じがしませんか?
立位でも同様につま先は外側に向くのが自然です。
スタンスを広くすると大腿骨が外旋し、大腿骨と靭帯で強固に連結されている脛骨も外旋し、足部もつられてより外側を向きます。
ワイドスタンスでは通常のスタンスよりも自然とつま先がより外側に開きます。
股関節伸展に働く筋肉は
- 大殿筋
- 大腿二頭筋(長頭)
- 半腱様筋
- 半膜様筋
- 大内転筋(後部線維)
が挙げられます。
内転筋群としてはその他にも長内転筋、短内転筋、恥骨筋などもありますが、唯一大内転筋のみが坐骨に起始をもつことで股関節の伸展に寄与します。
つま先を外に向けることで、しゃがむ際に股関節の外転動作が入り大内転筋が活性化され、上記の大殿筋、ハムストリングスと共に適切なヒップドライブが可能とします。
FMSやSFMAの評価動作であるオーバーヘッドスクワットではつま先を正面に向けますが、これはあくまで足関節の柔軟性をより浮き彫りにするためですので、ストレングストレーニングで行われるオーバーヘッドスクワットではつま先は30度外側を向けるように指導しています。
3.Tripod(トライポッド)を意識する
足部はフラットに保ち、母指球、小指球、踵の3点(トライポッド)を意識することで足部にかかる荷重を分配することができます。
また、足趾については軽く背屈することでウィンドラス機構を働かせ、足部をさらに安定させることができます。
足部の安定性の欠如は上行性の運動連鎖により足関節、膝関節、股関節など他の部位にも影響を及ぼすため、いかに足部を安定させるかが全体のパフォーマンスにとっても大変重要です。
トライポッドについてはこちらをご覧ください。
ウィンドラス機構についてはこちらをご覧ください。
運動連鎖についてはこちらをご覧ください。
4.膝を外に割る
今回の足部に直接的な関係がないように感じますが、膝の安定性は下行性の運動連鎖から足関節の可動性、足部安定性に影響します。
膝を安定させることは膝の障害を防ぐためにも、力を効率的に伝えるためにも必要なことですが、大切なことはどこで安定させるかです。
上記でも触れたように一般的なストレングストレーニングでのスクワットでは踵が肩幅、つま先は30度外側に向けたスタンスをとりますが、膝はそのつま先のライン上にあるのが適切な位置です。
決して正面を向いているのが適切な位置ではありません。
膝を外に割る(つま先のライン上に乗せる)ことで、しゃがんだ際に股関節前面のスペースをつくり、大腿骨が邪魔せず適切な深さまで達することが可能となります。
また、膝を外に割ることで股関節伸展筋である、大内転筋がより活性化されより強いヒップドライブを行うことができます。
ここで注意点としては、上記のTripod(トライポッド)を確保した上で膝を割るということです。
膝を割ることを意識することで小指側だけに荷重することは足部の安定性にとってはマイナスに働いてしまいます。
5.mid-foot(足部の真ん中)に乗せる
スクワットの際に足底のどの部分に荷重するかは様々な意見があり、1つの考えに対して賛否両論あるのが現状ではありますが、現時点ではスクワットに限らずトレーニングを行う際にはCOM(質量中心)は常にmid-foot(中足部)の真上にあり、その上にバーが位置するのが基本と考えています。
理由としては
- 安定性が高い
- 腰部への過剰なストレスを減らせる
1については重心が支持基底面の中央に位置するため安定性が高くなりバランスがとりやすくなります。
詳しくはこちらをご覧ください。
2については私も以前は踵に乗せることでパフォーマンスの向上にとって不可欠な身体後面の筋群であるPKC(ポステリアキネティックチェーン)を活性化させるように指導していたのですが、現在はmid-footに荷重しながらLBBS(low bar back squat)を行うことで腰部への過剰なストレスを少なくした上で、より上体を前傾させPKCを刺激するようにしています。
踵ではなく足部の真ん中に乗せるようにした背景としては、HBBS(high bar back squat)を踵重心で行うことで腰部の痛みや違和感を訴える選手が多くいたことがあります。
踵重心で行うことで上体がより前に傾き、腰部とバーのレバーアームが増加することで腰部への負担が増えたと考えられます。
上記の画像で中央の画像がHBBSです。
この画像では足部の真ん中に乗せているので上体の傾きは大きくないですが、踵に乗せた場合は重心のクリアランスをとるため上体はさらに前に傾きます。
上体が前に傾き腰部とバーの距離が離れたのに加え、HBBSはLBBSに比べてバーの位置が腰よりもより遠くなるため腰部への負担がさらに増加します。
もちろん、あえて踵重心で行うことで長期的に腰部を含めたPKCを強化するという選択もあるかとは思いますが。
但し、動き始めは股関節から動くよう指示し、その際には少なからず踵重心になるように指導しています。
理由としては
- 動作の開始時に踵に乗せることで膝を割りやすくなる。
- 膝が過度に前に出るのを防げる。
- PKCを活性化させる。
皆さんも立位のまま上体を少し前に傾けてつま先に荷重したり、後ろに傾けて踵に乗せてみて下さい。
その際、膝にはどんな感覚がありますか?
恐らく、つま先に乗せた際には膝は内側に倒れる感覚があり、踵に乗せると反対に外側に開く感覚があるのではないでしょうか?
踵に乗せることで距骨が回外し、上行性の運動連鎖により脛骨は外旋し、結果として膝は外に開きます。
また、踵に乗せることで脛骨が前に傾くのを抑え、結果として膝が過度に前に出るのを抑える利点もあります。
ですので、細かく言えば
動き始めは踵に荷重して、降下のしながら安定性の高い足部の中央に乗せる
基準を微調整する
ここまでスクワット動作においてスクワットにおける足部の安定性を高める5つのこと」をお伝えしてきました。
しかし、人間の身体は個性があり、十人十色です。
明確な基準を持ちながらも1つの型にはめるのではなく、それぞれの身体的特性に合わせて微調整をする必要があります。
ここがトレーナーの腕の見せ所であり、やりがいの感じる部分です。
スタンスに影響を与える要因としては
- 骨盤の幅
- 大腿骨と脛骨の長さと形状
- 大腿骨前捻角
- 膝関節のアライメント
- 脛骨の外捻角
- 股関節の柔軟性
- 内転筋とハムストリングスの柔軟性
- 足関節の柔軟性
などが考えられます。
例えば
- 背が高くて長い大腿骨を有している場合、より広いスタンスにする。
- 内反足趾を有している場合、つま先をより正面に向ける。
- 脛骨の外捻角が大きい場合、つま先をより外側に向ける。
- 足関節の柔軟性が低い場合、つま先をより外側に向ける。
などの微調整が必要になります。
大切なことは無理に型にはめようとし過ぎず、大腿骨と脛骨の関係性を自然に保ち関節包や靭帯の捻れを防ぎ関節への過剰な負担を回避し、その上で中期的な視点で改善できることは改善していくことではないかと思います。
まとめ
- 踵が肩幅のスタンス
- つま先は30度外側に向ける
- トライポッドを意識する
- 膝を外に割る
- mid-foot(中足部)に荷重する
- 明確な基準を持ちながらも身体的特徴に合わせて微調整する