先日スタッフがハチに刺されました。
自然界には人に悪影響を及ぼす毒素をもつものがあり、ふぐや毒キノコのように食して毒素が体内に入る場合と、ハチや蛇など体表から毒素が注入される場合があります。
今回はハチに刺されたようですが、刺されたハチが何かは覚えていないようです。
我が国においては、
- スズメバチ
- アシナガバチ
- ミツバチ
の3種類が人を刺す習性があります。
スズメバチ
アシナガバチ
ミツバチ
毒の強さとしては、スズメバチ > アシナガバチ > ミツバチで、特にスズメバチでは、刺されると強いショック症状を呈する場合が多いので注意が必要です。
幸いスタッフは無事に事なきを得たので一安心ですが、我が国では毎年蜂に刺され亡くなられる方がいます。
ハチ殺傷による死亡者数
上のグラフは厚生労働省の人口動態調査の内、2000年から2016年までのデータをグラフ化したものです。
毎年約20名の方が蜂に刺され命を落としています。
男女比は8:2で圧倒的に男性が多いようです。
おそらく男性の方が山などに行く機会が多いのが原因かと思います。
蜂に刺され死亡する方の多くが、アナフィラキシーショックを起こし1時間以内に死に至っているようです。
アナフィラキシーショック
アナフィラキシーショックは、免疫疾患の一種です。
免疫とは細菌やウイルスなどから身を守るための防衛反応の1つで、我々が病気にならなかったり、病気から回復するのはこの免疫が正常に働いているからです。
しかし、この免疫が何らかの原因で異常をきたし、無害な物質に対しても過剰反応を起こしてしまうことがあります。
この過剰反応をアレルギー反応と言います。
アレルギー反応は、発生メカニズによって4つに分類できます。
上記のⅠ型は即時性で発症までの時間が短く、ハチ毒の多くは約15分以内には症状が出てきます。
そして、Ⅰ型で全身性に蕁麻疹、呼吸困難、血圧低下などのアレルギー症状を呈したものをアナフィラキシーといい、その内、生命の危険にさらされる重篤な状態をアナフィラキシーショックといいます。ハチ毒に過敏なアレルギー反応を起こす人の中に、ある一定の頻度でアナフィラキシーショックを起こす人がいて、ショック状態となると上気道の浮腫により窒息し、心停止に陥ることがあります。
ハチ毒によるアナフィラキシーショックから心停止に至るまでの時間を下記のグラフで示しました。
この研究では
- 医原性(薬物)
- ハチ毒
- 食物
によるアナフィラキシーショックから心停止に至るまでの時間を報告しています。
それぞれの中央値は
- 医原性:5分
- ハチ毒:15分
- 食物:30分
となっています。
アナフィラキシーショックはハチに刺されてから15分以内で発症し、発症してから15分で心停止に至ります。
要するに、ハチに刺されてからの30分に適切な処置をする必要があるということです。
最近は都心部でも多いようですが、山中などで刺された場合は病院まで搬送するのは時間的に厳しいですね。
また、短期間に2回以上蜂に刺されると、アナフィラキシーを起こしやすくなるという調査結果もありますが、初めての刺された方でもアナフィラキシーを起こす方がいるようです。
刺された際の対処法
- その場から離れる
- 毒を絞り出す
- 傷口を洗う
- 抗ヒスタミン系成分を含むステロイド系軟膏を塗る
- 傷口をアイシングする
毒を絞り出す際は市販のポイズンリムーバーを用いると良いです。
ポイズンリムーバー
但し、下記の症状が現れたらアナフィラキシーを疑います。
- 不安間、無力感
- 呼吸困難
- 動機
- 吐き気
- 腹痛
- めまい
- しびれ
- 全身の腫れ
- かゆみ
- チアノーゼ
そして、速やかに以下の処置を行います。
- エピペンを注射する
- 救急車を呼ぶ
- 安静にする
安静にする際は、血圧が低下するため足を高くします。
もし、嘔吐などがある場合は横向きの回復体位にすると良いでしょう。
大切なことは、常に最悪の場合を想定して行動するということです。
HOPSによる評価
HOPSとは我々スポーツトレーナーが怪我や障害を評価する際に用いる手法で
- History:問診
- Observation:視診
- Palpation:触診
- Special test:整形外科的テスト
の頭文字の略です。
ハチ毒の際にも上記の流れで評価できると確認すべきことが整理できてよいと思います。
問診
いつ刺されましたか?
これまでにハチに刺されたことはありますか?
ハチアレルギーを持っていますか?
何か所刺されましたか?
自覚症状は何がありますか?
などが主に聴くべき内容です。
アナフィラキシーはハチに刺されて15分で発症するとされています。
いつ刺されたかを聴くことで、状況を判断する手助けになります。
また、今回が1回目なのか、2回目以上なのかも大切な情報です。
アナフィラキシーは2回目以降になることが多いようです。
但し、1回目でもなることがあるので、刺された箇所数を確認することでハチ毒の量を把握することができます。
一般的には、複数個所刺された方がアナフィラキシーになる確率は高いようです。
視診
チアノーゼは起きていないか?
正常な呼吸はできているか?
腫れ、蕁麻疹などの全身症状は出ていないか?
視診で大切なことは全身症状が出ていないかを確認することです。
全身症状が出ていればアナフィラキシーを疑います。
触診
脈は正常に触れているか?
局所、または全身の熱はないか?
痺れや麻痺などの感覚異常はないか?
直接肌で触れて、全身症状がないかを確認します。
整形外科的テスト
現場でできる有効なテストはありません。
アナフィラキシーが疑われる場合は、速やかに医療機関に搬送しましょう。
医療機関での検査
ハチアレルギーの検査は
- アレルギー内科
- 皮膚科
で行ってもらえます。
皮膚検査としてはスクラッチテストや皮内テスト、血液検査としてはハチ毒のIgE抗体というタンパク質の量を調べるRAST法が用いられています。
アレルギーが認められた方は、医師にアナフィラキシーショックに奏功するエピネフリンが0.3mg充填された「エピペン」を処方してもらい携行するようにした方が良いです。
この「エピペン」2011年9月に保険適用となり、一部負担で処方を受けることができます。
まとめ
- 我が国においてはスズメバチ、アシナガバチ、ミツバチが人を刺す習性があり、特にスズメバチは注意が必要である。
- ハチ毒による死亡者は年間20名おり、男女比8:2で男性に多い。
- アナフィラキシーショックを発症するとハチ毒の場合、15分で心停止に至る。
- 局所のアレルギー反応以外に全身性の症状がある場合にはアナフィラキシーを疑い「エピペン」を注射し、救急車を要請する。
- 皮膚科やアレルギー科でハチ毒の検査ができ、陽性の場合は医師に「エピペン」を処方してもらい常に携帯するようにする。